「螻翁伝(ろうおうでん)」
螻(けら)という虫は、よく飛べども家を過ぐる事あたはず、よくのぼれども木を窮(きわ)むる事あたはず、よくおよげども谷を渡る事あたわず、よく穴ほれども掩(おほ)ふ事あたわず、よく走れども人を免るゝ事あたわず。是をかれが五能ありて一ッをもなさずとはいへりとぞ。
ここに翁あり、詩つくれども詩ならず、歌よめども歌に似ず、物かけどもよからず、絵かけどもつたなく、俳諧すれども下手なり。我かの虫におとらめやとて、みずから螻翁(ろうおう)とぞ名のりける。やや老いにたり、今はかかる身のほどをしりて、他にほめられむ事をねがはず、人の謗りをいとはず。さらば何に歟(か)も腹たてゝ、かのつぐみという鳥にはよろこばるべき。よしたゞかれは腹たつべくとも、我は笑はむと思へるなりけり。(鶉衣より)
上記の文を読むにあたり、次のことわざを知っていると、意味解釈が深まり、漢字検定の勉強にもなります。
○石鼠(せきそ)五能(ごのう)一技(いちぎ)を成(な)さず。
○螻蛄(けら)腹立つれば鶫(つぐみ)喜ぶ。
ここに翁あり、詩つくれども詩ならず、歌よめども歌に似ず、物かけどもよからず、絵かけどもつたなく、俳諧すれども下手なり。我かの虫におとらめやとて、みずから螻翁(ろうおう)とぞ名のりける。やや老いにたり、今はかかる身のほどをしりて、他にほめられむ事をねがはず、人の謗りをいとはず。さらば何に歟(か)も腹たてゝ、かのつぐみという鳥にはよろこばるべき。よしたゞかれは腹たつべくとも、我は笑はむと思へるなりけり。(鶉衣より)
上記の文を読むにあたり、次のことわざを知っていると、意味解釈が深まり、漢字検定の勉強にもなります。
○石鼠(せきそ)五能(ごのう)一技(いちぎ)を成(な)さず。
○螻蛄(けら)腹立つれば鶫(つぐみ)喜ぶ。